福岡高等裁判所 昭和43年(行コ)2号 判決 1971年2月17日
第二号事件被控訴人・第四号事件控訴人(原告) 桶口秀雄
第二号事件控訴人・第四号事件被控訴人(被告) 長崎県知事
主文
一審原告の控訴を棄却する。
原判決中一審被告敗訴の部分(本件換地指定処分の違法を宣言した部分)を取り消す。
一審原告の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも一審原告の負担とする。
事実
一審原告は「原判決中一審原告敗訴の部分を取り消す。一審被告が一審原告に対し、福江市北町七〇四番宅地八五・九五平方メートル(二六坪)の換地として、福江市中央町六番三一号(一八街区二六画)宅地七六・一六平方メートル(二三・〇四坪)を指定した処分を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも一審被告の負担とする。」旨の判決並びに一審被告の控訴に対し控訴棄却の判決を求め、一審被告は主文と同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張及び立証の関係は、左のとおり付加するほかは原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する(編注、原判決の証拠番号を訂正する部分は省略)。
第一、一審原告の主張。
一、原判決は、本件換地指定処分を違法であると認定しながら、行政事件訴訟法三一条一項を適用し、一審原告の従前の土地をはじめその周辺の土地一帯は、本件土地区画整理事業による換地処分がなされて既に軒を連ねて建物が建ち並び、一大商店街を形成していることが認められるから、一審原告に対する本件換地指定処分が違法として取り消されると、その影響するところはひとり一審原告に対する換地のやり直しとなるに止まらず、換地計画全体の修正を余儀なくされ、その結果は、右の如く換地処分が適法であるとしてその換地上に形成された多数の第三者間に生じた法律関係及び事実状態をも一挙に覆滅し去ることにもなり、公共の利益に著しい障害をもたらすことは明らかである、云々と判示して一審原告の本訴請求を棄却した。
二、しかし、なるほど一審原告の従前の土地及びその周辺の土地は現在商店街を形成していることはそのとおりであるが、一審原告は、一審原告に対する本件換地指定処分が、その位置、間口、環境等において訴外山本熊次、山村チノ、平川光丸、才津惣太郎のそれに比較し著しく不公平であると主張しているものであり、本件換地指定処分が取り消されたとしても、一審被告は、一審原告とこれら訴外人との間の不公平を是正すれば足り、本件換地指定処分を取り消すことによつて覆滅される法律関係や事実状態は小範囲に止まり、しかも一審原告及び右訴外人らの換地上の建物は殆ど木造であるから、換地指定処分のやり直しによつて生じるこれらの者の損害も又比較的僅少に止まるのである。
更に、換地指定処分の取消は、その性質上、その取消を求める被処分者のみならず、その他の者の利害に影響を及ぼすことは当然であり、しかも、違法処分を受けた者の損害も金銭で償えないものはないであろうから、原判決の如く言うならば、換地指定処分の取消にはすべて行訴法三一条一項が適用されることになり、違法な換地指定処分を受けた者は遂に同法による救済を受けることができないことになり、同法の目的は達せられないことになる。更に、本件換地指定処分が取り消されないとするならば、一審原告の犠牲において前記訴外人らが不当な利益を温存する結果となり、正義公平の原則に反することは明らかである。
結局、行訴法三一条一項を適用するのは、行政処分が違法であつてもこれを維持する公益上の必要が強く要請される極めて例外的な場合でなければならないのであるから、右規定はあくまでも厳格に解釈すべきである。
第二、一審被告の主張。
一、一審原告に対する本件換地指定処分は、左に述べるとおり決して不公正なものではない。
(一)、土地区画整理事業における換地計画の策定の基礎である土地の評価は、従前の土地については区画整理開始前の時点でなされるべく、これに対し換地の評価は区画整理完成の後の時点において予想されるところによつてなされるべきである。本件区画整理事業は、昭和三七年九月の福江市の大火後の復興計画事業として開始されたものであるから、本件換地計画の基礎資料たる従前の土地の評価は、右火災前の時点におけるものによつて行ない、換地の評価は区画整理完成後である現在におけるものを想定して行なつたのである。
(二)、昭和三七年九月の大火前における福江市の商業地形成状況は、別紙見取図(一)に図示するように、市の北東方の船着場に上陸した乗客の大部分が、海岸添いの街路を通つて酒屋通りに出、右通りを南下し、その通りが新栄町通りに突き当つた丁字形交差点を右折し、次の交差点で左折して本町通りを南下するという流れをなしていて、酒屋町通り及び右通りと交差する地点から右折した新栄町通り西半部分の街路が幅員七・五メートルの県道で完全舗装されており、町内一流の商店はいずれもこの街路に面して建ち並んでいて、この区域が繁栄の中心をなしていた。これに対して、右丁字形交差点から左折した新栄町通り東半は、道路幅も五ないし五・五メートルと狭く、交差点から約四〇メートル離れた付近からは約一、〇〇〇分の六五の勾配をなし、舗装も不完全なうえに、北側は旧日赤病院の石垣となつていたところから、当時においては、右東半の部分は商店街としてはせいぜい二等地或いは三等地というところであつた。即ち、前記見取図中赤色部分の街路が第一の商業繁栄地、赤斜線分の街路がこれに次ぎ、青色部分の街路は商業地としては閑散な三等地であつた(乙第一三号証参照)。
これを本件関係の従前の土地についてみれば、酒屋町通りが新栄町通りに突き当たる正面にあつた訴外山本熊次の所有地が最高で、その向つて右隣りの山村チノの土地と酒屋町通りの中心にあつた平川光丸の所有地がこれに次ぎ、新栄町通りの東半分に面していた福地新一及び一審原告の土地のうち、交差点に近接していた福地の土地は或程度の価値が認められるものの山村、平川の土地に比べると数等落ち、一審原告の土地は更に数等劣るものであつた。
しかして、一審被告は、土地の評価にあたつては換地交付細則(乙第二号証)にもとづき、いわゆる路線価式評価方法によつて行なつたのであるが、これを本件関係の従前の土地の道路に面する部分の路線価についていえば、第一に街路係数については、前記のとおり酒屋町通りと、新栄町通り西半部は道路の幅員も広く、完全舗装されて、福江市における最高の道路条件であつたのに対し、新栄町通り東半の部分は幅員も狭く、かつ勾配があり、舗装も不完全であつたことから、前記酒屋町通り及び新栄町通り西半部に比べると数等低く、従つて山本、山村、平川の各土地の部分が最高で、これに対し福地及び一審原告のそれは数等低いものであつた。第二に、接近係数は、福江市の商店街が県道である酒屋町通りと新栄町通り西半部を中心に形成されていたこと、新栄町通り東半には石垣壁の旧日赤病院などがあり商店街の形成が少なかつたことから、山村、山本は最高に位置し、平川、福地、一審原告がそれに次ぐものであつたが、その中でも一審原告は平川、福地より不利であつた。第三に、宅地係数については、いずれも大差がなかつた。以上の三係数を総合すると、山村及び山本の土地の路線価指数は市内最高であり、それから数等低くなつて平川、福地、一審原告という順序であつた。
(三)、これに対し、本件区画整理後は、区画整理事業と並行して行なわれた都市計画街路事業により、船着場から海岸通りを酒屋町通りに至る中間に新たに福江循環線につながる大波止線が開設されたことと、新栄町通りの道幅が東半部をも含め一六メートルに拡張され、かつ従前のだらだら坂が全部整備舗装されたこととによつて、現在は船着場に上陸した乗客の流れは、大火前のそれとは全く異なり、新設の大波止通りを経て新栄町の一審原告及び福地の土地の前を通過して本町通りに出るように一変している。これに伴なつて、別紙見取図(二)に示すように、区画整理によつて新設された寿通りと新栄町通り、本町通り、平和通りに囲まれる地域が第一の繁栄商業地区になると同時に、この地区と寿通りを挾んで対面するところの、寿通り新栄町通り東町通り及び平和通りに囲まれる地域がこれに次ぐ第二の繁栄地にのし上がりつつある(右見取図中赤色部分の街路が第一の商業繁栄地、赤斜線部分がこれに次ぎ、青色部分は三等地である)。現に、一審原告や福地の換地の向かい側には親和銀行の支店が移転し、バス停留所も新設され、商業地としては一等地とも目される状況に変貌している。
これは、全く区画整理の結果であつて、一審被告は区画整理によりこれらの地区の商業形成が大体このように変るとの想定のもとに換地の評価を行ない、この評価を基礎として、従前の土地の評価と対比しつつ本件換地計画を策定したのである。
(四)、以上の如き、従前の土地と換地との正しい価値評価の基礎の上にたつてみれば、一審原告の土地は区画整理前は商業地としては閑散な三等地に過ぎなかつたのに、区画整理のおかげで一躍一等地と目されるような要地になつたのであるから、換地により間口を狭められた率が〇、六七と隣地のそれに比して多少大きくなつているからといつて、これに不服を唱えるのは余りに欲張つた主張というべきである。
それにも拘らず、一審原告が本件換地指定処分を不公正として争う理由の第一は、平川光丸に対する飛換地が一審原告の換地よりも角地に近く割り込んだ点にあると思われるが、右は次の事情によるもので、一審原告の非難は該らない。即ち、本件区画整理では、多くの公共施設が設けられ、そのため現地に換地を指定することができなくなつた者が多数に上り、平川の場合もその中の一であつたところ平川の従前の土地は前述のように一審原告のそれをはるかに凌ぐ市内第一の繁華街にあつたので、これを新栄町通りに飛換地するについては一審原告に対する換地よりも角地に近い現在の位置に指定するのが妥当と考えられたためにそのようにしたものである。その結果、一審原告に対する換地が角地より多少遠ざかることになつたのであるが、このことは、区画整理によつて人の流れが前述のように変つた今日の状況下においては、商業地としての価値にさほど大きな影響を及ぼすことではない。
次に、一審原告の不服の第二の点は、要するに、山村チノ、山本熊次らに対し過当に有利な換地が指定され、そのため一審原告に不利益なしわ寄せが及ぼされているということのように解されるが、それは次の如き事由によるものであつて、右不服は理由がない。即ち、寿通りは本件区画整理によつて新設されたものであるから、この新設道路に面する表通りは、特別の事情のない限り、該道路の敷地として収用されたところの従前の土地の所有者に対し換地指定するのが換地計画立案における原則であつて、この原則により、新設された寿通りが新栄町通りと交わる四ツ角の両側をなす角地は、その前面の道路敷を従前の土地として所有していた山本及び山村の両名に換地指定されるべきものであるところ、両者の従前地を比較すると、前述のように、山本の方が山村より有利な位置にあつたので、山本に対する換地は、両側の角地のうち、より多く繁栄している地区の側の現在地に指定することになつた。その結果、山村の換地が従前の土地の列順と入れ替つて、第一の繁栄地区の反対側に移されることになつたので、そのことに対する不満を償うためにその間口を或程度広く与えることになつたのである。しかして、山本、山村に対する換地についても、換地交付細則に準拠し、区画整理完成後の時点で評価を行ない、従前の土地の評価額との間で合理的な金銭清算がなされているのであつて、一審原告の不服は、これらの事情を無視した全く根拠のない単なる羨望に過ぎない。
また、才津惣太郎に対する換地について言えば、土地区画整理事業の目的が公共施設の整備改善と宅地の利用増進であるから、袋地であつた宅地も可能な限り道路に面して換地を指定すべきところ、本件の場合、寿通りが新設されたので、位置的及び区画割りの技術的見地からも、才津の換地を寿通りに面するように定めることが適当と考えられた。そして、福地と才津のように両者とも角地でない土地相互間では価値にあまり差がないことと、才津の換地を福地の換地の南側に指定すれば福地の換地が不整形になり宅地としての利用価値が著しく低下するということとを考慮して、福地の利益のために、才津の換地を福地のそれの北側の現在置に指定した。そして、才津の従前の土地は二一・四八坪と地積が小であつたため、本来からすれば、土地区画整理法九一条一項の規定に従いあまり減歩しないのが筋であつたが、換地位置が有利になつたことの釣合のために、換地地積の適正化に反するものではあつたけれども、特に他に比べて減歩を厳しくして他との調整を図つているのである。
二、次に、一審原告が本訴請求の理由とするところは、要するに、一審原告に対する換地が従前の土地に照応せず甚しく不適正であるという点にあるが、換地の照応不照応は、区画整理地区全域にわたるすべての換地を総合比較して判断されるべきもので、個々の換地或いは部分的な数個の換地のみをとりあげて判定することは許されない。また、仮に一、二の換地が不照応、不適正と認められたとしても、その修正は換地計画の全般に影響を及ぼすことなしに行なうことができないのであるから、換地の不照応についての不服は、換地計画が策定されこれが知事の認可によつて確定するまでの過程において、区画整理地区全域を総合して策定された不可分一体の換地計画に対する不服として争われるべきものである。本件において、換地計画は知事の認可によつて確定している。一審被告は、この確定した換地計画に従つてその換地計画のとおり換地指定をしたもので、それは、区画整理事業施行者たる一審被告の権利であると同時に義務でもある。従つて、右確定した換地計画の執行としてその内容に従つてなした本件換地指定処分が違法とされる理由はない。もし本件一審原告に対する換地が不照応であるとしても、そのために取り消されるべきものは「換地計画」であつて、本件換地指定処分ではない。
三、およそ土地区画整理のすべての場合に、換地についての不照応不適正という苦情は応接にいとまがないほど多数続出するのが通例で、施行者がこれらの苦情のそれぞれを一々納得させようとしていたのでは、換地計画の策定は遂に不可能に近い。従つてこれらの不服に対する裁定は、原則として施行者の自由裁量に任されるべきで、その裁定に犯罪或いはこれに近いような不正が行なわれたと認められる場合のほかは、みだりに裁判所がこれに介入すべきではない。
第三、右一審被告の主張に対する一審原告の答弁並びに反論。
一、一審被告の右一、の主張事実中、一審原告の従前の土地の面していた新栄町通り東半の部分が、昭和三七年九月の大火前、酒屋町通りよりも商業地として劣つていたとの点は否認する。なるほど、従前は、酒屋町通りの北東端の川口に船着場があつた関係上、海路から福江市に出入する者は主として酒屋町通りを通行し、また陸路によつて同市に出入する者も、酒屋町通りにバスの発着所があつたため同通りを利用し、酒屋町通りが人通りも多く殷賑を極めていた。ところが、昭和一二年頃、市内大波止に浮棧橋ができ、ここで、乗、下船が行なわれるようになり、更にバス発着所が裁判所前に移転してからは、人の流れが変わり、新栄町通りから本町通りにかけての人通りが多くなつて、昭和三七年九月二六日の大火当時は、形勢逆転して酒屋町通りよりも新栄町通りが繁栄していた。従つて、酒屋町通りに面していた平川光丸の従前の土地よりも、一審原告の従前の土地の方が商業上数等優る位置にあつたのである。
一審被告は、区画整理事業の遂行を急ぐことのみに専念し、一般の売買価額等を全く考慮せずに、市の固定資産評価額のみをもつて従前の土地の評価の基準としたため、正当な評価額を得ることができなかつたのである。
仮に、一審原告並びに近隣の者の従前の土地の価値が、一審被告主張のとおりであるとしても、一審被告は、本件区画整理において、もと袋地であつた才津の従前の土地に対しては寿通りに面した換地を指定し、また山本及び山村に対しては角地を換地に指定し、しかも右両名及び平川には最も繁栄している新栄町通りに面して従前の土地の間口と同じかまたはこれよりも広い間口を与えているのに対し、福地新一と一審原告に対して従前の土地に比較し狭い間口を与えている。このことは、清算金をもつても償うことのできない重大な差別であり、この差別は何ら合理的な根拠のないもので、本件換地処分は違法たることを免れない。
また、従前の土地と換地との照応についての考慮は、土地区画整理事業開始時における状況を基準としてなされるべきであつて、区画整理事業においてなされた施策を勘案すべきではない。本件についてみると、昭和三八年一月三〇日、一審原告をはじめ近隣の者に対し仮換地の指定がなされ、同四一年九月一四日、その仮換地に本件換地指定処分がなされている。従つて、本件換地指定処分についての照応の考慮は、仮換地指定処分時における状況を基準としてなされるべきであり、その後における区画整理事業施行の結果による状況の変化を考慮すべきではない。
二、一審被告の右二、三の主張は争う。
第四、双方の新たな立証。<省略>
理由
一、請求原因第一、二項の事実(原判決事実摘示)は当事者間に争いがない。
二、一審原告は、一審被告の一審原告に対する本件換地指定処分は近隣の者に比較して一審原告のみが著しく不公平、不合理に取り扱われているのであつて、一審原告に対する換地は、従前の土地と照応せず本件処分は土地区画整理法八九条一項に違反し違法である旨主張する。よつてこの点につき判断するが、土地区画整理法八九条一項は、換地を指定する基準として「換地及び従前の土地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない」旨規定しているところ、土地区画整理においては、その本質上土地の区画、形質に変更を生じるものであるし、また道路、公園等公共施設の新設を伴うことが通常であるため、すべての条件が従前の土地に照応するように換地を定めることは、技術的にも殆んど不可能であるから、右規定は、各換地が、同項所定の諸要素を総合的に勘案して従前の土地と大体同一の条件をもつて、かつすべての換地がおおむね公平に定められるべきことを規定したものと解するのが相当である(法も、各土地権利者間に多少の不均衡が生じることを当然のこととして予定し、これを是正するため清算金の制度を設けているのである)。従つて、指定された換地が、位置、地積等の個々の点につき従前の土地と多少照応しない場合でも、それだけで直ちに当該換地指定処分が違法とされるものではなく、前記諸要素等を総合的に勘案してもなお従前の土地と著しく条件が異なり、かつ近隣の土地所有者に比較して著しく不利益な処分をしたものであつて、そのことにつき合理的な事由を欠除する場合でない限り、該換地指定処分は違法とはならないものと解すべきである。
三、そこで、これを本件について考えてみるに、一審原告及び訴外福地新一、同山本熊次、同山村チノ、同才津惣太郎、同平川光丸ら各所有の従前の土地、並びにこれらの土地が面していた道路の位置、形状が原判決別紙見取図(一)に示されるようなものであり、これらの土地の間口、地積(一審原告の土地については公簿上の地積)、利用状況が一番原告主張のとおりであつたこと、本件区画整理事業施行の結果、新栄町通りが幅員約一六メートルに拡張され、酒屋町通りは新栄町通りを貫いて延長されて寿通りが新設されたこと、これらの各道路並びに一審原告及び前記訴外人らに対し指定された各換地の位置、形状が原判決別紙見取図(二)に示されるようなものであり、その各換地の間口、地積が一審原告主張のとおりであることは当事者間に争いがない。右事実からすると、一審原告の換地は、従前の土地に比較し、新栄町通りと酒屋町通りの交差点から、以前より約二〇メートルも離れた位置に指定され、かつ間口についてみても、前記山村、山本、平川は従前と同じかまたはこれより広い間口の換地を与えられ、また才津は袋地であつた従前の土地に対して寿通りに面した間口五・四五メートルの換地を与えられたのに対し、一審原告の換地の間口は従前の土地の約〇・六七倍と減少しており、従前の土地に比べ間口が狭く奥行の深い形状になつていることが明らかであるが、これらの点のみをとらえると、(特に一審原告の従前の土地が商業用店舗の敷地として利用されていたことを考慮すれば)一審原告の換地は従前の土地と少なからず照応しないばかりでなく、右山村、山本、平川、才津らの各換地に比較して不利益に取り扱われたかのようにみえる。
四、しかしながら、一方、成立に争いない甲第六号証(一部)、同第九号証、乙第二、三号証、同第六号証、同第七号証の二ないし六、同第八号証、同第一三、一四、一五、一七ないし二九号証、原審証人川口一(一部)、同田尾昇、当審証人松尾鷹次、同田中武熊の各証言、原審及び当審での検証の結果を総合すれば、
「(一)、一審原告及び前記訴外人らの各従前の土地及び付近道路の位置関係は本判決別紙見取図(一)に示すとおりであり、昭和三七年九月二六日の大火以前の福江市においては、新栄町通りのほぼ西半部分(同通りが酒屋町通りと交差する地点から、本町通り及び堀町通りと交差する地点までの部分――同見取図(一)参照)を中心とし、これに接する酒屋町通り及び本町通りの部分が最も商業の繁栄する場所であり、同部分の道路は幅員約七・五メートルの県道で完全舗装されており、海路及び陸路から同市に出入する買物客の流れも大半が右部分の通りを経由していたこと、しかし、新栄町通りのうち、酒屋町通りとの交差点からほぼ東半にあたる部分は、道路幅員も五ないし五・五メートルと狭く、舗装も完全でなく、右交差点から遠ざかるにつれて商業地としての価値が低くなるような状況であつたこと、従つて、右交差点から、訴外福地の土地を挾んで隔てた位置にあつた一審原告の土地は、右交差点及びその西側に位置していた訴外山本、山村の土地や、酒屋町通りに面していた平川の土地に比べると商業地としての価値が劣つていたとみられること、ちなみに、これを従前の土地の一坪当たり固定資産税評価額についてみても、山本の従前の土地が金七、七五〇円と最高で、以下平川が金六、九六九円、山村が金六、八六八円、一審原告が金六、二四二円、福地が金五、二三六円、才津が金三、六七五円の順になつていること、
(二)、しかるに、本件土地区画整理により一審原告らに与えられた各換地、並びに新設、拡張された付近道路の位置関係は本判決別紙見取図(二)に示すとおりであるところ、区画整理の結果新栄町通りが従来の東半部をも含め幅員約一六メートルに拡張されて全部舗装され、かつ寿通りが新設されたのに加えて、一審原告の換地の前付近にはバスの停留所が新たに設けられたことや、船の発着場が従前よりも東南方の位置に完全整備されたことと相俟つて、新栄町通り東半部分の人通りも次第に増え、これに伴つて右東半部分の商業地としての価値は区画整理前に比較すれば格段に高まり、むしろ酒屋町通りを凌ぐ程になつてきていること、
(三)、しかして、一審被告は、本件換地計画の基礎資料となる土地の評価にあたり、長崎県の定めた換地交付細則に基づき、通常区画整理事業において採用されているいわゆる路線価式評価方法によることとし、右細則に準拠して各街路につき路線価を定めたのであるが、それによれば、従前地については、山村の土地の接する街路の路線価指数が市内でも最高の一、〇〇〇、以下山本が一、〇〇〇及び八七三、平川が八八五、一審原告及び福地のそれは八七三となつたこと、また換地についても、区画整理事業施行の結果による状況を想定、勘案してそれぞれ路線価を定めたのであるが、それによると一審原告の換地の接する街路の路線価(指数)は九七七となつたこと、そして、一審被告は、右各路線価を基礎に、各筆につき奥行修正等の修正を施して評定価額を算出し、各筆の従前の土地と換地との評定価額がおおむね照応するように考慮して各換地を指定したこと、これを一審原告についてみれば、従前の土地の評定価額は金一四万一、四六八円、換地のそれは金一二万一、五一二円で、その差額金一万九、九五六円が清算金交付額となつているが、右金額程度の差額を生じた例は他にもみられること。
(四)、次に、一審被告は、本件区画整理においては、換地の位置が従前の土地の位置に照応するように換地を指定することを原則としたのであるけれども、道路、公園等公共施設の新設、拡張のため、いわゆる飛換地をせざるを得ない土地も多数にのぼり、訴外平川もその一事例であるが、同人については、一審原告の土地の属する区画(本判決別紙見取図(二)の寿通り、新栄町通り、東町通りに囲まれた区画)が、東町通りが東方へ移動したことの結果区画整理前よりも若干広くなつたので、この部分に平川の換地を指定することとし、同人の従前の土地の方が一審原告及び福地の従前の土地よりも有利な位置にあると認められたため、その換地も一審原告及び福地より角地に近い現在の位置に指定されたこと、その結果、一審原告の換地は、整理前に比べ角地から離れた現在の位置に指定されざるを得なくなつたこと、また、訴外才津の従前の土地は袋地であつたが、土地区画整理の目的に照らし、これに対する換地は道路に面した位置に指定するのが適当であると考えられたところ、たまたま付近に寿通りが新設されたため、右通りに面する現在の位置に指定したのであるが、その反面、減歩率を他よりも大にして均衡を図るよう考慮され、なお清算金二万八、六〇二円も徴収されたこと」
以上の事実が認められる。原審証人川口一及び原審での一審原告本人は、区画整理前においても新栄町通りの一審原告の従前の土地の方が酒屋町通りの平川の土地より商業上有利な位置にあつたかのように供述し、成立に争いない甲第六、八、九、一〇号証中にもこれに合致するような記載部分が存するけれども、右は、いずれも新栄町通り西半部と東半部を区別することなく、また区画整理前と整理後の状況を混同して供述している疑いが濃く、前掲証拠と対比してにわかに措信しがたいし、他に右認定を左右するに足るような証拠はない。
五、右認定事実に徴すると、一審原告の従前の土地の存した新栄通通り東半部分は、本件区画整理の結果、道路の整備、拡張等により商業地としての価値が格段に高くなつたものであり、かつその価値の増加の度合いが新栄町通り西半部分や酒屋町通りよりも著しいものと認められ、これを一審被告の定めた路線価(右路線価の定め方も、前示の事情に照らし一応妥当と認められる)に基づく評定価額によつてみても、一審原告の換地は従前の土地に比べかなり角地から離れているにも拘らず、両者の評定価額には大差がないのであつて、これらの点を含めて総合的に勘案すれば、一審原告に対し指定された本件換地は、当該街路区画自体の商業地としての価値の増加による利益をもつて、角地から遠ざかりかつ間口が減少したことによる不利益がほぼ補われ、従前の土地とおおむね同一の条件にあるものというも妨げなく、しかるときは、一審原告主張のように、右換地が従前の土地に照応しないものと断じ去るわけにはいかない。この点に関し、一審原告は、従前の土地と換地との照応についての考慮は、区画整理事業開始時における状況を基準とすべきであつて、区画整理事業によつてなされた施策を勘案すべきではないと主張する。しかし、照応考慮の基準となる土地の状況は、従前の土地については区画整理事業開始当時(本件においては昭和三七年九月二六日の大火直前当時)の状況、換地については区画整理完成の時点において想定される状況によるべきものと解されるから、右主張は採用できない。加うるに、換地計画において換地を定める場合には、土地区画整理事業施行の趣旨に鑑み、宅地の利用の増進を図るため、各筆の形状が、それ自体としてもまた隣接土地との関連においても利用上適正となるように考慮する必要があると解されるところ、乙第一四号証及び証人田中武熊の証言によると、一審原告の換地の間口の減少率が他に比して大きく従前よりも奥行の深い形状になつたのは、換地後の各筆の形状を整えるため、一審原告の換地の東側隣接地と各背割線(道路背面の境界線)を揃える必要上、奥行を七・一二間と従前より深くとらざるを得なくなり、その結果相対的に間口の減少をきたした、という技術的な要請にもよるものであつたことが認められるのであつて、右措置は一応妥当なものと考えられるし、しかも一審原告の換地は間口(約三・二〇間)と右奥行との関係からみてそれ自体適正な形状であると認められるので、この点よりしても一審被告の本件換地指定処分が違法であるとは言いがたい。
次に、一審原告は、本件換地指定処分は、近隣の山村、山本、平川、才津らに比較して一審原告のみが著しく不公平に取り扱われていると主張する。しかし、前示のように、もともと山本、山村、平川の各従前の土地は一審原告よりも商業上有利な位置にあつたのであるから、同人らの換地が一審原告のそれよりも有利な角地、もしくは角地に近い場所に指定されるのは当然であるし、また同人らの換地の間口が一審原告主張の如くに定められたのは、乙第一三、一四号証によると、これらの換地の形状を(各隣接土地との関連においても)適正にしようとする合理的な配慮の結果であることがうかがわれ、かつ、乙第八号証によれば、これによつて生じた不均衡は清算金により調整されていることが認められるので、以上の点を考慮すれば、右山本らが一審原告よりも著しく有利に取り扱われているものとは認めがたい。また、才津についてみても、前示のとおり、土地区画整理の目的に鑑み、土地利用の増進を図る趣旨で、従前の袋地を新たに道路に面するように換地指定されたに過ぎず、その反面減歩率を大にしたり清算金を徴収するなどして均衡が図られているのであつて、そうすると同人が不当に有利な取り扱いを受けたとも言い得ない。更に、減歩率について検討しても、乙第八号証によれば、従前の土地(公簿上の地積)に対する換地の面積は、山本が約〇・八六倍、山村が約〇・八三倍、福地及び有川二郎吉が約〇・八〇倍、才津が約〇・七五倍、平川が約〇・八八倍に対し、一審原告は約〇・八八倍(一審原告が〇・七六倍と主張しているのは計算間違いによるものと認められる)であつて、一審原告はこの点ではむしろ他よりも有利な取り扱いを受けているのである。一審原告は、自己の従前の土地の実際の面積は三二・七三坪であつた旨主張するけれども、成立に争いない乙第一号証によれば、本件土地区画整理事業につき土地区画整理法の規定にもとづいて福江市が定めた施行規則をもつて、換地計画において換地を定めるために必要な従前の宅地各筆の地積は事業計画の認可の公告があつた日から起算して二週間を経過した日現在の土地台帳地積による(同第一八条)ものとされていたところ、一審原告が右基準日までに公簿上の地積の更正手続をしなかつたことはその主張自体から明らかであるから、仮に従前土地の実測面積が一審原告主張のとおりであつたとしても、右実測面積をもとに換地の減歩率の不当を主張することはできないというべきである。
六、以上の次第で、結局、一審原告に対する本件換地指定処分が、土地区画整理法八九条一項の規定に違反する違法な処分であるとは認めがたいので、一審原告の本訴請求はその余の点に触れるまでもなく理由がないものとして棄却されるべきである。
よつてこれと異なる原判決は一部失当であるから、一審被告の控訴にもとづき、原判決中一審被告敗訴の部分(本件換地指定処分の違法であることを宣言した部分)を取り消して一審原告の請求を棄却することとし、一審原告の控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 亀川清 蓑田速夫 柴田和夫)
別紙
見取図(一)<省略>
見取図(二)<省略>